紙を切らしてしまいましてね。自転車で文具屋へ出向いたのです。
大きな画材屋ではありません。二坪?三坪?というくらいの、ちいさなちいさな、町の文具屋さんなのですが。
そんな可愛らしいお店になぜか、スクリーントーンが置いてある。
Gペンのペン先やら、マンガ専用原稿用紙(青い印刷でトンボが入っているやつ)などが置いてある。
ちょっとした同人誌なら描き上げられるだろうだけの品揃えが、小さな文具屋の一角を占めているのです。
こんな僻地です。プロアマ全部合計したってそんなにたくさんのマンガ描きがいるとは思えない。
大阪市内ならいざ知らず、こんな場所でトーンの需要なんてあるのかな、と常々思っていたのですが……
見てしまった。
ああ、僕は見てしまった。
小学六年生か、ひょっとすると中学一年くらいの女の子。
当然のようにメガネっ娘でありました。
けっこう可愛い子でしたけどね。
その子が、ペン先やらトーンやらをしきりに物色していたのです。
トーンもペン先も、とりあえず何を買ったらいいかも分からない様子。
細い指でペン先をつまみ上げ、首をかしげていました。全くの初心者、という感じでした。
そばで、お母さま(娘をそのまま大人にしたようなメガネ母)が、娘のその様子を見守っておられました。
分かっちゃったよ、おじさんには、さ。
ママに、まんがセットを買ってもらうんだね……
最終的には、某社製の「同人誌スターターセット」みたいなものを購入されたようです。
紙・ペン・トーンなど、基本的なものがパッケージされているらしいですね。いまは、そういう便利なものがあるんですねえ。
同人作家がまた一人誕生する瞬間を、僕は見てしまった。
痛いんだか微笑ましいんだか。
痛いっちゃあ、失礼か。
10年後の大作家が誕生するその瞬間に、僕はたまたま立ち会ったのかもしれませんものねえ。
……二ヵ月後、母・ゆり子は、ふとしたことから娘・美沙の作品を見てしまう。
娘の外出中、掃除のため美沙の自室に入り、学習机の上に積み上げられていた完成原稿を、ついつい読みふけってしまったのであった。
「ああっ! あの娘ったら、なんて淫らな作品を……」
そう、そのマンガは、結婚もし子ももうけた……何も知らない乙女というわけではないゆり子ですら赤面を禁じえない破廉恥作品であった。
ひどく直接的に性的なモチーフが描かれている。
しかもそれは、素直に男女の性愛を描いたものではない。
衆道の契り……男と男の禁断の愛を、美しく、それでいて生々しく表現したものなのであった。
「いけない……いけないわ美沙」
ひとりごちながら、しかしゆり子のページを繰る手は止まろうとしない。
ギリシャ神話の神々をすら髣髴とさせる、夢のように美しい青年たちが、その生まれたままの姿を惜しげもなくさらしている。
あまりにも奔放に絡み合い、ひどく率直に性の悦びをその美しいかんばせに咲かせているのだった。
ゆり子はまだ、801、という言葉すら知らない。
(叱らなければ……こんなものを描くために、まんがセットを買い与えたのではないはずだわ)
しかし、ゆり子の胸の奥に生じた、この妖しい疼きはなんだろう。
ゆり子の手は、細かく震えはじめた。
原稿から視線をそらすことが出来なくなっていた。
「ああ……」
ゆり子は我知らず、その唇の間から甘い溜め息を漏らしていたのだった。
こんなにも胸がときめくのは、何年も前、新婚初夜を迎えたとき以来……
いや、もしかするとそれ以上の…………
ゆり子38歳、ボーイズラブに目覚めた瞬間であった。
それは遅すぎる開花であったろうか。
否。
一年後、ゆり子はBL同人作家としてコミケットへの初参加を果たす。
ペンネームは玻璃原まぁやであった。
娘の美沙は、瑠璃原さぁやと名乗っていた。
奇跡の母娘サークルとしてのし上がっていくゆり子と美沙。
壁サークルとなり、東館を席巻するのは、記念すべきコミケット80のことであった。
(これ以上続けると、疲れた身体に致命傷となるので、突然ですがここでヤメます)
バカなもの書いたせいでもないのでしょうが、頭が痛い。頭痛がひどい……
あんまりにも頭が痛くて、吐き気がしてきた。
大きな画材屋ではありません。二坪?三坪?というくらいの、ちいさなちいさな、町の文具屋さんなのですが。
そんな可愛らしいお店になぜか、スクリーントーンが置いてある。
Gペンのペン先やら、マンガ専用原稿用紙(青い印刷でトンボが入っているやつ)などが置いてある。
ちょっとした同人誌なら描き上げられるだろうだけの品揃えが、小さな文具屋の一角を占めているのです。
こんな僻地です。プロアマ全部合計したってそんなにたくさんのマンガ描きがいるとは思えない。
大阪市内ならいざ知らず、こんな場所でトーンの需要なんてあるのかな、と常々思っていたのですが……
見てしまった。
ああ、僕は見てしまった。
小学六年生か、ひょっとすると中学一年くらいの女の子。
当然のようにメガネっ娘でありました。
けっこう可愛い子でしたけどね。
その子が、ペン先やらトーンやらをしきりに物色していたのです。
トーンもペン先も、とりあえず何を買ったらいいかも分からない様子。
細い指でペン先をつまみ上げ、首をかしげていました。全くの初心者、という感じでした。
そばで、お母さま(娘をそのまま大人にしたようなメガネ母)が、娘のその様子を見守っておられました。
分かっちゃったよ、おじさんには、さ。
ママに、まんがセットを買ってもらうんだね……
最終的には、某社製の「同人誌スターターセット」みたいなものを購入されたようです。
紙・ペン・トーンなど、基本的なものがパッケージされているらしいですね。いまは、そういう便利なものがあるんですねえ。
同人作家がまた一人誕生する瞬間を、僕は見てしまった。
痛いんだか微笑ましいんだか。
痛いっちゃあ、失礼か。
10年後の大作家が誕生するその瞬間に、僕はたまたま立ち会ったのかもしれませんものねえ。
……二ヵ月後、母・ゆり子は、ふとしたことから娘・美沙の作品を見てしまう。
娘の外出中、掃除のため美沙の自室に入り、学習机の上に積み上げられていた完成原稿を、ついつい読みふけってしまったのであった。
「ああっ! あの娘ったら、なんて淫らな作品を……」
そう、そのマンガは、結婚もし子ももうけた……何も知らない乙女というわけではないゆり子ですら赤面を禁じえない破廉恥作品であった。
ひどく直接的に性的なモチーフが描かれている。
しかもそれは、素直に男女の性愛を描いたものではない。
衆道の契り……男と男の禁断の愛を、美しく、それでいて生々しく表現したものなのであった。
「いけない……いけないわ美沙」
ひとりごちながら、しかしゆり子のページを繰る手は止まろうとしない。
ギリシャ神話の神々をすら髣髴とさせる、夢のように美しい青年たちが、その生まれたままの姿を惜しげもなくさらしている。
あまりにも奔放に絡み合い、ひどく率直に性の悦びをその美しいかんばせに咲かせているのだった。
ゆり子はまだ、801、という言葉すら知らない。
(叱らなければ……こんなものを描くために、まんがセットを買い与えたのではないはずだわ)
しかし、ゆり子の胸の奥に生じた、この妖しい疼きはなんだろう。
ゆり子の手は、細かく震えはじめた。
原稿から視線をそらすことが出来なくなっていた。
「ああ……」
ゆり子は我知らず、その唇の間から甘い溜め息を漏らしていたのだった。
こんなにも胸がときめくのは、何年も前、新婚初夜を迎えたとき以来……
いや、もしかするとそれ以上の…………
ゆり子38歳、ボーイズラブに目覚めた瞬間であった。
それは遅すぎる開花であったろうか。
否。
一年後、ゆり子はBL同人作家としてコミケットへの初参加を果たす。
ペンネームは玻璃原まぁやであった。
娘の美沙は、瑠璃原さぁやと名乗っていた。
奇跡の母娘サークルとしてのし上がっていくゆり子と美沙。
壁サークルとなり、東館を席巻するのは、記念すべきコミケット80のことであった。
(これ以上続けると、疲れた身体に致命傷となるので、突然ですがここでヤメます)
バカなもの書いたせいでもないのでしょうが、頭が痛い。頭痛がひどい……
あんまりにも頭が痛くて、吐き気がしてきた。
| ホーム |

